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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12239号 判決

原告 竹山晃司こと朴達晩

被告 李京源

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

三  本件につき当裁判所が昭和四四年一一月一一日になした強制執行停止決定は、これを取消す。

四  前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、訴外尹柄管に対する東京法務局所属公証人近藤忠雄作成昭和四三年第八六〇号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本にもとづき昭和四四年一〇月一六日別紙一の物件目録記載の各物件についてなした差押の強制執行は、これを許さない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は請求の趣旨記載の公正証書の執行力ある正本にもとづき、昭和四四年一〇月一六日、他の動産とともに、別紙一の物件目録記載の各動産(以下「本件動産」という)に対し差押の強制執行をした。

2  本件動産は、かつて訴外城北化工有限会社(以下「城北化工」という)の所有であつた。

3(一)  昭和四三年一〇月二八日原告と城北化工とは次の内容を含む契約(以下「本件契約」という)をした。

(1)  訴外日進建材株式会社の原告に対する貸金債務金一七五万六一七六円およびこれに対する昭和四二年五月一日より昭和四三年一〇月二七日までの日歩八銭二厘の割合による遅延損害金債務を城北化工が重畳的に引受け、これにより城北化工が原告に対し負担する債務額を金三三〇万円(右引受債務額より多い)と定め、これを分割して弁済することとする。

(2)  城北化工は右債務の履行を担保するため、本件動産を原告に譲渡する。

(二)  同日、原告は城北化工から占有改定の方法により、本件動産の引渡しをうけた。

よつて本件動産は原告の所有に属し、被告がこれに対してなした前記強制執行は許されないものであるから、その排除を求める。

二  請求原因に対する認否

1  第1、第2項は認める。

2  第3項(一)のうち、本件契約において、城北化工の負担する債務額を金三三〇万円と定めたとの点は否認し、その余は認める。

三  抗弁

1  仮に城北化工の債務額を金三三〇万円とする合意がなされたとしても、右合意は利息制限法に定める制限利率(日歩八銭二厘相当)を超える遅延損害金を元本に組み入れたものであるからその超過部分については右合意は無効である。

従つて、右約定の存否にかかわらず、本件契約により城北化工の負担した債務額は、引受債務の元本金一七五万六一七六円とこれに対する昭和四二年五月一日より昭和四三年一〇月二七日まで日歩八銭二厘の割合による遅延損害金七八万六〇五三円との合計金二五四万二二二九円である。

2(一)  本件契約においては、城北化工は原告に対する債務を昭和四三年一〇月二八日より支払済みに至るまで毎月八日、一八日、二八日の三回各一〇万円を分割弁済する旨の約定がなされた。

(二)  そこで城北化工は原告に対し、右約定に応じて別紙二の支払一覧表記載のとおり二八回にわたり各一〇万円の割賦金の弁済をした。なお、その弁済が約定の期日より遅延したものについては同表記載のとおり遅延損害金を併せ支払つた(その合計一八万五七〇〇円)ところ、右割賦金に対する遅延損害金は、その利率を年三割六分五厘として計算しても遅滞の延日数六三〇日に応じた額は金六万三〇〇〇円にすぎないから、右の支払額に不足はない。

従つて、同表記載の第二六回の支払をもつて本件債務は完済されたものである。

仮に本件債務について昭和四四年一〇月二八日以降利息制限法所定の最高利率年一割五分の割合により利息を付すべきであるとしても、別紙四の計算書記載のとおり第二七回の割賦金の支払をもつて本件債務は完済されたこととなる。

四  抗弁に対する認否

1  第1項は否認する。城北化工に一一か月という長期分割弁済の利益を与えることにかんがみて、引受債務額に若干の金額を加算した金三三〇万円を支払う旨の合意がなされたのである。

2  第2項(二)中第一ないし第九回の弁済については認めるが、その余の弁済については否認する。後者につき、城北化工が支払のため振出した手形・小切手(21を除く)は、原告の資金によつて決済されたものであり、原告はその際、城北化工から新たに別紙三の手形小切手目録記載23ないし25および33ないし37の各手形の振出をうけたところ、右各手形はいずれも支払われていない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因第1項および第2項の事実は、当事者間に争いがない。

二  同第3項(一)の事実は、本件契約において、城北化工の負担する債務額を金三三〇万円と定める合意がなされたとの点を除いて、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、証人星野ヨシ子の証言および原告本人の供述によると、右の合意がなされたことが認められる。

同項(二)の事実は、被告の明らかに争わないところである。

三  ところで、城北化工が引受けた債務は、元本一七五万六一七六円とこれに対する昭和四二年五月一日より昭和四三年一〇月二七日までの日歩八銭二厘の割合による遅延損害金であるから、その総額が右元本額と損害金七八万六二七五円とを合計した二五四万二四五一円となることは計数上明らかである。

右の引受債務額を超える三三〇万円をもつて城北化工の負担する債務額と定めた前記合意の効力について、被告は、日歩八銭二厘(利息制限法による遅延損害金の制限利率年三割にほぼ相当する)の割合を超える遅延損害金を元本に組入れたものであるから、その超過部分については無効であると主張する(抗弁第1項)のであるが、本件全証拠をもつてしても、前記合意が被告の主張するような趣旨のものであることを認めることはできない。むしろ、前掲甲第一号証、原告本人の供述に本件弁論の全趣旨を合わせると、前記合意は、本件契約において、城北化工の引受債務につき分割弁済を認めたことから、契約時以降各弁済期までの金利を見込んで、これを引受債務額に加算したものをもつて、城北化工の支払うべき債務額(三三〇万円)とする趣旨であると認めるのが相当である。

四  前記合意の趣旨が右認定のとおりであるとすると、そこで加算された金利について、利息制限法の適用を検討する必要がある。

本件契約は重畳的債務引受と準消費貸借をあわせてなしたものというべきであり、本件契約において、城北化工がその債務を昭和四三年一〇月二八日より支払済みに至るまで毎月八日、一八日、二八日の三回各一〇万円を分割弁済する旨の約定がなされたことは、原告の明らかに争わないところである。

前記合意は、要するに、実質的な債務額(すなわち引受債務額二五四万二四五一円)に、契約時から約定の弁済期までに生ずべき利息をあらかじめ加算したものを形式上の元本としたものであるから、利息制限法第二条を類推適用し、右の実質的な債務額を元本とみなして、同法第一条第一項に定める年一割五分の利率により弁済期までの利息を計算し、合意された形式上の元本額が右計算による元利合計額を超えるときは、その合意は超過部分については効力がないものと解するのが相当である。

そこで、引受債務額二五四万二四五一円を元本とし、年一割五分の割合で利息を付するものとし、前示の弁済方法により各弁済期に支払われるべき各一〇万円を順次に当該弁済期までの利息と元本の一部に充当することとして計算すると、その結果は別紙五の計算書に示すとおりであつて、第一回ないし第二六回の弁済期に各一〇万円、第二七回の弁済期に八万一三六三円を支払うことにより完済されることとなる。従つて、形式上の元本額を三三〇万円と定めた前記合意は、右支払金の合計額二六八万一三六三円の限度においてのみ有効というべきである。

五  被告は、城北化工が原告に対し本件債務につき別紙二の支払一覧表記載のとおり二八回にわたり弁済した旨主張する(抗弁第2項(二))ので、これについて判断する。

同表記載の第一回ないし第九回の各金一〇万円の弁済については、当事者間に争いがない。

次に、証人星野ヨシ子の証言ならびに成立に争いのない乙第三号証の一ないし九、原本の存在および成立に争いのない乙第一四、第一五、第一七号証、右星野証言によって真正に成立したことが認められる乙第四、第五号証の各一ないし三、第六号証の一、二、第七号証の一ないし六、第八号証の一、二、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし六、八、九、一一ないし一三、第一二号証の一、二、第一三号の一、三、五、原本の存在およびその成立は、裏書部分について争いがなく、その余の部分については右星野証言によつて認められる乙第一六号証、第一八ないし第三四号証を総合すると、城北化工は別紙二の支払一覧表記載の第一〇ないし第二八回分の各支払のために別紙三の手形・小切手一覧表記載の番号1ないし6、8、10ないし19、21および22の各手形・小切手(以下単に「1の小切手」のごとくいう)を各額面金額中金一〇万円をこえる部分は遅延損害金分として原告に対し振出したこと、右のうち、8は9の小切手に、19は20の小切手にそれぞれ書き換えられ、その他の手形小切手および右の書換小切手は、6の手形を除いて、いずれも別紙六の手形小切手決済一覧表記載の各決済日に各支払銀行における城北化工名義の当座預金口座において決済されたこと、(右各手形・小切手の決済自体は21の手形を除いて当事者間に争いない)、6の手形は7の小切手に書き換えられ、その後昭和四四年四月一八日城北化工は原告に対し右小切手と引換えに本件債務の第一五回分の弁済として金一〇万円を支払つたこと、以上の事実を認めることができる。右認定事実によれば、城北化工は原告に対し、本件債務の弁済として、第一〇ないし第二八回のうち第一五回を除いては前記各決済日に各手形小切手の額面金額の金員を、第一五回については昭和四四年四月一八日金一〇万円をそれぞれ支払い、結局元本計二八〇万円および遅延損害金計一八万五七〇〇円を支払つたものと認められる。

原告本人の供述中には、城北化工は右各手形小切手を手形における支払期日、小切手における振出日において決済することができない状態にあつたので、原告が自ら資金を支払銀行に持参して城北化工のために右各手形小切手を決済したうえ、城北化工から23ないし25、33ないし37の各手形をうけとつたが、右各手形は不渡りとなつたので本件債権の弁済をうけることはできなかつた旨の部分があるが、前掲星野証言ならびに同証言によつて真正に成立したことが認められる乙第一三号証の二、四および前出乙第一三号証の三、第一四、第一五号証、第一七号証によれば昭和四四年ころ城北化工は原告からたびたび融資をうけていたこと、右23ないし25の手形については城北化工の帳簿上新規借入金の扱いがなされており、しかも、右23の手形は26および29の各手形へと、右24の手形は27および30の各手形へと、右25の手形は28および31の各手形ならびに32の小切手へとそれぞれ書き換えられたうえ、右29および32の各手形ならびに32の小切手はいずれも決済されるに至つたこと、本件債務の支払いにあてられた前記各手形・小切手の各決済当日またはその直前、右23ないし25、33ないし37の各手形の額面金額と同額の金員が城北化工名義の各当座預金口座に入金となつた事実はないことの各事実を認めることができ、右事実および前記認定のとおり本件債務の支払のために振出された手形・小切手が決済できない場合は書換えの方法をとつていた事実にてらすと原告本人の前記供述部分は措信できない。また、本件債務の弁済をなすについて、原告が城北化工から支払のため手形・小切手を受領した際にはその旨の「仮証」を原告が発行し、右手形・小切手が決済されると三回ごとにあらためて受領証を発行することに当初なつていたにもかかわらず、第一〇回の弁済以降については受領証の発行はなされておらず、さらに第一九回の弁済以降は「仮証」も発行されていないことは本件弁論の全趣旨により窺われるところであるが右事実をもつてしても前記認定を覆すには足らず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、前記認定のように、第一〇回以降の弁済はいずれも約定の支払期日より遅れてなされているが、各期の支払元本一〇万円に対する遅滞の延日数は七一二日であり、仮に利息制限法所定の元本一〇万円の場合の制限利率年三割六分により計算しても、その間の遅延損害金の額は七万〇二二四円となるから、城北化工が実際に支払つた前記の遅延損害金一八万五七〇〇円は右を上廻るものであつて、その支払に不足のないことは明らかである。

六  してみると、城北化工の原告に対する本件債務は前記認定の第二七回の弁済をもつて完済され(一万八六三七円の支払超過)、これにより原告は本件動産に対する所有権(譲渡担保権)を失つたものというべきである。

よつて、原告が右所有権を有することを前提とする本訴請求は失当であるから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、強制執行停止決定の取消およびその仮執行宣言につき同法五四九条四項、五四八条一項、二項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村岡二郎)

(別紙一)物件目録〈省略〉

(別紙二)支払一覧表〈省略〉

(別紙三)手形・小切手目録〈省略〉

(別紙四)計算書(被告)〈省略〉

(別紙五)計算書(裁判所)〈省略〉

(別紙六)手形・小切手決済一覧表〈省略〉

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